日本商工会議所編 「長寿企業の秘密」に掲載されました
越後村上うおや 〔新潟県村上市〕
鮭のまちの伝統の技、昧を守り
全国へ”おいしい”を届ける
独自の製法にとことんこだわる
新潟県村上市は。鮭のまち・といわれ、毎年11月になると、
市内の至る所で軒下に鮭を干す光景を目にすることができる。
その調理法も多岐にわたり、昔からこの地に伝わるものだけで100種類を超える。
中でも、特に有名なのが「塩引鮭」だ。
それを200年以上にわたってつくり続けてきたのが、越後村上うおやだ。
同地には鮭の加工業者が十数社あるが、同社がその歴史において番の老舗だという。
「村上は塩引鮭を製造するのに最適な土地なんです。
湿度が高く、気温が低いので、おいしいものができます。
ほかの地域だと鮭が乾燥し過ぎて、カチカチになってしまうんですよ」と九代目上村隆史さんは言う。
鮭こうば 本店の目の前にある鮭の加工場。
風通しがいい構造になっている本店の目の前にある鮭の加工場。
9代目上村隆史さん(右)と母の八恵子さん。
「私が営業関係を主に担当し、母が製造を担当しながら従業員の育成も行っています」(隆史さん)
気温10度以下、湿度70%程度が最高の条件で、それに合わせて例年10月に仕込みが始まる。
まず鮭の腹を裂いて内臓を取り除き、よく洗い塩漬けにする。
これを1週間寝かせた後、水洗いして塩抜きを行い、条件が整った11月から干し始めるのだ。
干す期間はI週間で、おいしくつくるには干し方が重要だという。
「うちでは干す場所を何度か変えています。
最初に屋外で陰干しして、その後、室内に干します。
室内の北側に干すときは、できるだけ冷たい風を当てるために朝4~6時の間に行うようにしています。
寒暖の差がある風にさらすことで、鮭のうま昧を引き出すわけです。
この干し方は代々受け継がれてきたものなんですよ」と説明してくれたのは、母親の八恵子さん。
60年近くも塩引鮭をつくり続けており、まさにうおやの味を決めている人物なのだ。
真摯な姿勢でお客と向き合う
時は、あまりに手間や時間がかかるため、乾燥機を使って手早く仕上げることも考えたそうだ。
しかし、それでは代々守ってきた昧は出せないと、あくまでも昔ながらの自然乾燥にこだわっている。
こうした真摯な姿勢は、原料選びにも見られる。
同社は、「おいしいものは良い原料からしかできない」との考えの下、
日本海で取れた脂がのった鮭しか使わない。
「今まで続けてこられたのは、代々の当主が品質にこだわりながら、
さらにお客さまの要求に丁寧に応えてきたからだと思います。
辛口が好きな人もいれば、そうでない人もいます。
切り方や塩の量を調整して販売してきたのです」と八恵子さんは話す。
●「塩引鮭」のおいしさを左右する千す工程は、乾燥機を使わずに、手間暇をかけた昔ながらのやり方を貫く
お客さまから。要求したものと違う・と言われれば、丁重に謝り、すぐに新しい商品を送り届けた。
こうした対応を続けてきたからこそ、何代にもわたり付き合いを続けてくれるお客さまが少なくない。
しかも、そうした人々が日本全国にいるという。
「長年の顧客だけでなく、最近はインターネットでたまたまうちを見つけて注文してくれたお客さまが、
翌年も注文してくれるケースが非常に増えています」
こう話す隆史さんは、当初、後を継ぐ気は全くなかったそうだ。
大学卒業後はSE(システムエンジーア)として働いていたが、インターネットが普及していく中で
「これを活用すれば、うおやの商売をもっと面白く展開できるのではないか」という思いが頭から離れなくなる。
そこで会社勤めをする傍ら、うおやのホームページを作成することにした。すると、思惑は見事に大当たりし、
各地から次々と注文が舞い込んできたのだ。
●塩漬け工程では、塩を尾から頭に向かって擦り込むように塗り、腹の中にもまんべんなく擦り込む
郷土の味、鮭料理を全国に広めていきたい
この成功を受けて、2年後の平成13(2001)年、隆史さんは会社を辞めて実家に戻ることを決断した。
これには息子が戻ってくるのをすっかり締めていた八恵子さんも驚いた。
「あまりにも想定外だったため困ってしまったくらいです。
でも、今は戻ってきてくれたことに本当に感謝しています」と八恵子さんはうれしそうに話す。
その後の隆史さんは郷土に伝わる料理を参考に、タラやマスの塩引をはじめ、
地元で取れる魚介類を使った新商品を次々に開発する。
それを八恵子さんが長年の経験を生かして再現するという絶妙な連携で、数々の商品化を実現した。
その中でも特にマダラの鍋セットは好評で、冬は飛ぶように売れるという。
「以前は鮭のシーズン以外は比較的暇だったんですが、隆史が戻ってきたことで、
季節に応じた商品をいろいろと出せるようになり、商売の幅がぐっと広がりました」
平成23(2011)年には、隆史さんが同社の代表に就任する。
そして、「これからは会社の規模を拡大するよりも、商品の中身の充実を図り、
村上の鮭加工品のおいしさを日本全国に伝えていきたい」と意気込みを見せる。
地元の有志とともに進めている、村上に伝わる100種類の鮭料理を再現する取り組みからは、
きっと新たな名物となる商品も生まれてくるだろう。
平成25 2013)年9月には本店隣に食事処「海鮮一鰭」をオープンさせるなど、。
鮭のまち村上・をさらに活性化させるため、隆史さんの努力は続く。
【平成24年4月号掲載】
越後村上うおやの強さの秘密
一、手間暇惜しまず鮭の自然乾燥を貫く
ニ、品質を追求しつつ顧客のニーズにも細苧かに対応
三、インターネットで新規顧客を開拓している
社名 越後村上うおや
所在地 新潟県村上市大町4-3
電話 0254-52-3056
HP www.uoya.co.jp
代表者 代表 上村隆史
創業寛政年間(1800年頃)
従業員25人