鮭に感謝! 越後村上 ~城下町を支えた伝統食に学ぶ
2014年1月19日(日)(テレビ朝日 放送) 新潟放送制作 協力 文部科学省
全国33のテレビ局で放映されました。
宝石のように光り輝くイクラ、そして絶妙な塩加減の焼鮭。
ご飯がすすみますよね。
鮭は昔から日本人にとってもっとも身近な魚のひとつ。
そんな鮭を愛し、全ての部分をいかして100種類以上の料理を生み出す町が新潟県にありました。
三艘の船で追い込みながら鮭をとる昔ながらの漁法。
「鮭は万能の素材」
「なんたって鮭は村上では神様だから」
今週の日本食紀行は新潟県の城下町村上市。 鮭への感謝と独自の鮭文化に学びます。
人口6万4千人、新潟県の最北に位置する村上市。
村上藩の城下町として栄え、今もその風情ある街並みが残っています。
米どころで日本最北のお茶の産地であるなど、
特産品も数多くある中、その代名詞となっているのが鮭です。
全長およそ40kmの三面川、毎年秋、数多くの鮭が産卵のために戻ってきます。
皮の源流にある豊かな原生林。
蓄えられた雪は豊富なミネラル群を含んで川へ流れ込み、プランクトンを育て、
魚たちにとって理想的な環境を作り出します。
こうして母なる川に生まれ育った鮭は産卵の時期を迎えると再び三面川に帰ってくるようになりました。
江戸時代生まれた川に戻ってくる鮭の特性に着目した村上藩。
世界初と言われる自然孵化事業に取り掛かります。
産卵や孵化しやすいように皮を整備し、漁獲制限を設けるなどした結果、
多くの鮭が川に戻ってくるようになりました。
藩の財政を支え、現在まで鮭の惠を享受してきた村上は
いつしか鮭の町、鮭のふるさとと呼ばれるようになりました。
10月、鮭が産卵のために帰ってくる季節を迎えました。
鮭の姿を待ちかまえる三艘の船。
江戸時代から続く伝統の漁法。居繰り網漁です。
三面川に戻ってくる鮭は「シロザケ」という種類で、毎年4万尾の酒がこの川で水揚げされます。
そして捕れたばかりの生きのいい鮭は村上ならではの独自の調理法で一年を通して食卓に上ります。
代表的なものがこの塩引。
塩漬けにした鮭を自然乾燥することで身が引き締まり、絶妙な塩加減の保存食となります。
「塩引き鮭は外に干しますが、村上の気候で乾いたり、湿気でちょっと戻ったり、いい具合に熟成されます」
そして鮭と言えばイクラ、あの独特な食感が好きという方も多いでしょう。
村上ではイクラのことを腹子(はらこ)と呼び、さまざまな料理で活用してきました。
こうした鮭の美味しさを誰もが楽しめる作りだされた料理は100種類を超えると言われています。
鮭への感謝の気持ちから捨てることなく、あらゆる部分を活用する独特の調理法や料理が生まれました。
臭みを取り旨みを出すため塩漬け、醤油漬け、味噌漬けなど、
はらこだけでも数多くのバリエーションがあります。
そしてそのハラコを炊きたてのご飯でいただくのが最高の贅沢なのです。
180年の歴史を持つ老舗割烹の6代目、吉田昭一郎さんも鮭料理に魅せられた一人です。
鮭が捕れるのは秋なんですが、それを保存食に仕立て上げて経時変化を楽しみながら、
ずっと食べつくしていこうというのが村上流の鮭の食べ方です。
「誰が体系化したわけじゃなくて、例えば漁師が工夫したり、武士が工夫したり、
工夫が工夫をよんで100種類もあるという鮭料理ができたんだと思います。
そんな鮭料理の代表的な一品が漁師の賄い料理だったという「川煮」です。
ぶつ切りの鮭の切身を味噌汁で煮たあと取り出して藁の上で冷まします。
水気を含んでいて壊れやすい。
漁の最中、仮眠に使っていた藁に置いておいたところ料理が長持ちすることがルーツと言われています。
こちらはメフンと呼ばれる背中の血の筋を薄切りにした大根につけていただきます。
そしてこちらが見た目も食感もビーフジャーキーのような「鮭の酒びたし」
冬を越し初夏のころまで半年以上にわたって自然乾燥させた鮭をスライスし、
香りづけに日本酒をふりかけていただく、村上ではおなじみの珍味です。
7月の夏祭りやお盆の時期はお客様をもてなす一品として、
また酒のつまみとして振舞われることも多い村上自慢の味
「村上祭りに合わせて作っているんですよ。この日のために。」
「入梅の時にいらない塩分や脂を落としてくれる」
村上の気候によって絶妙な味に熟成された一品でした。
村上を離れた人にとって帰省する度味わいたくなるのが故郷の味。故郷の味=鮭料理なのです。
「村上で塩引き鮭を買って正月過ぎまで食べている。普通の新巻鮭とは全然違う。これは本当に美味しい。」
数多くの鮭料理を次の世代にも伝えていこうという試みも始まっています。
老舗割烹6代目の吉田さんや鮭加工品店、地元の酒蔵などをメンバーに活動する
「三面鮭御膳(みけつ)百選を味わい尽くす会」です。
古くからの鮭料理だけではなく、現代の調理法で作るメニューも考案し、アーカイブ化に取り組んでいます。
鮭料理5年で100種類を食べつくすことを目標に掲げています。
老舗割烹6代目の吉田さんや鮭加工品店、地元の酒蔵などをメンバーに活動する「三面鮭御膳百選を味わい尽くす会」です。
年に一度の試食会では20種類のメニューが振舞われ、
5年で100種類を食べつくすことを目標に掲げています。
4度目の開催をひかえ、この日は新たなメニューの考案に議論を重ねていました。
鮭という字が魚偏に十一、十一と書くことから11月11日は鮭の日とされています。
村上市では毎年この日を鮭魂祭として鮭への感謝の祈りを捧げています。
「三面鮭御膳(みけつ)百選を味わい尽くす会」当日が来ました。
鮭の白子、軽く茹で、水気を拭き取ったあとスモークします。
こちらはあの酒びたしを炊飯器の中へ、 酒びたしの炊き込みご飯仕込み中
鮭の粕漬け 厚みのある鮭を芳醇な酒粕風味で
はらこはシンプルな塩味でいただきます。
そしてオリーブオイルをふんだんに使ったスペイン料理のアヒージョ
和食の範囲にとどまらない自由な発想で生み出された数々の鮭料理。
気になるあのスモークもご覧のとおり。
白子燻製 柔らかな食感と香ばしいスモーク風味が食欲をかきたてます。
鮭の白子、軽く茹で、水気を拭き取ったあとスモークします。
半年以上かけて熟成された酒びたしの風味がツヤツヤのコシヒカリに行き渡って絶妙な美味しさを奏でます。
「酒びたし炊きこみご飯」の完成です。
参加者は
「百種類あるというのに驚いて、百種類全部食べてみようと、
味に対するこだわりが他の地域とは違うんじゃないでしょうか」
「こんな美味しいもの、村上の鮭は世界遺産にすればいいんじゃないかなって言っているんです。」
「鮭は万能の素材です。鮭は美味しいし、体に良いし、次の世代の人にも美味しく食べてもらいたい。
村上のひとのDNAに鮭が組み込まれていけばいいなと」
和食にとどまらない、新たな鮭料理の数々、次世代にもきっと受け継がれていくことでしょう。