■鮭の加工いろいろ
「山漬け(やまづけ)」は、普通の塩ザケとは違い、熟成に日数をかけてサケ肉の旨みを引き出
す古来からの製造方法です。「山漬け」は、多量の塩を魚体に散布し、莚(むしろ)でおおい
10層〜20層に山形に積み上げ、上部に重石(おもし)をあて加圧塩漬けします。
このことから「山漬け」と呼ばれるようになりました。工程に手間隙のかかることやサケを
ひっくり返し積み直す「手返し」という工程など世話のかかることから、
労力がかかりすぎるあまり大量には作れません
。
そのため、「山漬け」は広く流通せず、地元の漁民や「山漬け」を求める舌の肥えた食
通たちの間でしか話題にならなかった塩サケです。漬け時間の長短によって魚体の塩分を
加減し、身のしまり具合の良さや、旨みの熟成加減を微妙に調整します。
大正時代に北海道石狩川のサケ漁師たちが、新鮮なサケに薄塩をあてただけの長期保存
を目的としない塩引きサケを試作し「新巻あらまき」のネーミングで売り出したところ大評判をと
り、この爆発的な人気から、「塩引き」という「塩引き」はいっせいに名前を「新巻」として販売さ
れるようになったといわれています。
なお、「新巻」ネーミングのヒントには「藁巻きわらまきサケ」があったのではないかといわれています。
また、昭和5年頃に日魯漁業株式会社(現マルハニチロ)が函館の料亭から頼まれ、
カムチャッカの漁場で獲れたサケを薄塩にした塩引きをつくったところ好評をうけ、
「日魯新巻鮭」として大量に生産し、全国に販売したのが始まりとするむきもあります。
「塩引きしおびき」とはサケにかぎらず、魚類を塩漬けにする方法であり、
またその魚を意味しましたが、単に「塩引き」というとサケをさすようになっています。
したがって「山漬け」も「新巻」もおおきくは塩引きというジャンルに入ります。
塩を「引く」とは行き渡らせるといった意味を示しますので、本質的には塩を「加える」作法を示します。
さらに一度漬け込んだ塩を次には洗い流しますので、ここでは文字道り「引く」工程を経ることになります。
そして形を整えた後には、村上の風土独特の風干発酵ふうかんはっこう(寒風熟成干燥)で風味が増したと
ころでようやく完成となります。
この燻製の行程を経ないで風味付けをする製法は、生ハムのハモンセラーノにも相当すると例えられます。
ともに「塩熟(えんじゅく)」の末に得られる至福の逸品といえます。
「ルイベ」はアイヌ語で「凍った食べ物」あるいは「溶ける食べ物」を意味します。
サケのルイベは、鮮度の良いサケを選び、厚みのある背身を冷凍して、3、4ミリから1センチほどの
厚みでそぎ切りにします。
冷たいサケの身が口の中で、ひんやり溶けていく感触のお刺身です。
天然のサケにはまれに寄生虫がいることがありますがマイナス20℃で24時間以上経過すると
アニサキスなどの寄生虫は死ぬので、古くからこのように凍らせて食べる食べ方が伝承されています。
「飯寿(いいずし)」は、魚身を米飯と麹(こうじ)で漬け込む発酵食品です。
ほっけやハタハタで作る飯寿しもありますが、シロサケやベニザケでつくる飯寿しは特においしく人気の的です。
大まかな加工工程をご紹介します。秋サケの塩引きを水さらし(塩抜き)したのち、切身にし、
米飯と麹(こうじ)のあわせに、塩、酒、みりん、酢などとニンジン、キャベツ、生ショウガなど
の野菜といっしょに樽に漬け込みます。つぎに、漬け込みを終えたものから順に蓋をして氷温
庫に運び込み、次々に重石を乗せて加圧していきます。加圧することによってアミノ酸発酵が
おこり、飯寿しの旨味を引き出し、約1ヶ月間じっくりとねかせることにより飯寿しがさらに熟成
し、よりおいしい飯寿しへと生まれ変わっていきます。
■鮭の料理は骨や皮まで食べ尽くす
サケは捨てるところがないとよく言われますが、身や卵はもちろんのこと
内臓、中骨、かしら骨(軟骨、氷頭ひず)、エラ、ヒレ、皮とあらゆるところが
食べ尽くされその料理方法は100を越えるといわます。
カマ、アラ、目玉の裏に多いDHAや、最近は皮や鱗からコラーゲンを摂るなどで
最後は水晶玉しか残らないといわれています。
身をほぐした後の鮭皮はそのまま軽く火で炙り、パリパリと味わうのが美味しいのですが、
皮と身の間にある薄紅色の部分にはアスタキサンチンが凝縮されていますので、
ほのかな海老風味の香りを嗅ぎながら味わうことをお勧めします。
料理以外では、川まで溯ってホッチャレになった鮭は脂が抜け身が締まり皮は硬くなっていますので、
古いにしえには雪靴や防寒衣類に縫い合わせて利用していたことが知られています。
まさに「捨てない」伝統が染み着いている風土の息遣いを残しています。
■鮭の旨み
サケのおいしさの秘密は旨味としてのエキス成分が豊富だからで
す。秋サケの場合、産卵期が近づくとエキス成分が増加してきます。
その成分はタウリン、アラニン、グルタミン酸などの遊離アミノ酸と核
酸成分のイノシン酸、それにエキス成分中80%と大部分を占めている
アミノ酸のβ-アラニンとメチルヒスチジンが結合したアンセリンです。
秋サケの旨味はグルタミン酸とイノシン酸が相乗効果によって旨味
の主役になり、そのほかの遊離アミノ酸が脇役になっています。
カナダのN・R・ジョーンズ博士はアンセリンが食味の中でコクを与え
る役割があると述べていますので、食通のいう「秋サケのおいしさ」も、
このアンセリンが旨味の主役と脇役を引き立てているからかもしれません。

村上の鮭の逆さ吊り
■鮭の料理のしかた

飯寿司は、魚肉を米飯と麹(こうじ)で漬け込む発酵食品です。
ほっけやハタハタで作る飯寿しもありますが、
シロサケやベニザケでつくる飯寿しは特においしく、
人気が集まります。
大まかな加工工程をご紹介します。
秋サケの塩引きを水さらし(塩抜き)したのち、切身にし、
米飯と麹(こうじ)のあわせに、塩、酒、みりん、酢などと
ニンジン、キャベツ、生ショウガなどの野菜といっしょに
樽に漬け込みます。
つぎに、漬け込みを終えたものから順に蓋をして氷温庫に運び込み、
次々に重石を乗せて加圧していきます。
加圧することによってアミノ酸発酵がおこり、飯寿司の旨味を引き出し、
じっくりとねかせることにより飯寿しがさらに熟成し、
よりおいしい飯寿しへと生まれ変わっていきます。
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